千葉県 下総のわらべうた

音遊び

千葉県のわらべうた 下総しもうさ編です。

誰でもシンガー・ソングライター!で紹介しましたが、歌は好きだけど、うまく歌えない者にとってはまことにありがたい歌声ソフトがあります。

それを使って、地元千葉県のわらべうたを、紹介していきたいと思います。

千葉のわらべ歌(日本わらべ歌全集6下)から

千葉のわらべ歌(日本わらべ歌全集6下)には、たくさんの千葉県のわらべうたが採集されています。みんな素晴らしくて選ぶのに困るほどですが、安房、上総、下総に分けて、ここでは下総のものから取り上げてみたいと思います。たくさんありますので、だんだん増やしていきたいと思います。

地名については、本(1981年発行)のままとしました。

五線譜が実際に歌になると、うれしくなります。それに合わせて歌うと、さらにうれしいですね。

いちわのきんじょ

いちわのきんじょ〈手まり歌〉 (銚子市)

一わのきんじょ わしゃ一書かない
寺子屋じゃ なんだそれ 一書いて参らかす
わしゃ一書かないと またてんぼ貸した

二わのきんじょ わしゃ庭掃かない
寺の小僧は なんだそれ 庭掃いて参らかす
わしゃ庭掃かないと またてんぼ貸した

三わのきんじょ わしゃ笹売らない
大高源吾は なんだそれ 笹売って参らかす
わしゃ笹売らないと またてんぼ貸した

四わのきんじょ わしゃ皺寄らない
年寄りは なんだそれ 皺寄って参らかす
わしゃ皺寄らないと またてんぼ貸した

五わのきんじょ わしゃ牛蒡掘らない
百姓はなんだそれ 牛蒡掘って参らかす
わしゃ牛蒡掘らないと またてんぼ貸した

六わのきんじょ わしゃ櫓を漕がない
船頭衆は なんだそれ 櫓を漕いで参らかす
わしゃ櫓は漕がないと またてんぼ貸した

「きんじょ」というのは元は進上で、「てんぼ(天保銭)貸した」とセットで、てまりをリレーしていく意味合いがある、という説明が書かれています。「わしゃ・・・・・ない」という所が、すねたようで、とても面白いと思います。

坊やが泣けば

坊やが泣けば 〈守り子歌〉 (東葛飾郡関宿町)

ねんねんころりよ ねんころり
坊やはよい子だ ねんねしな
坊やが泣けば ねえやも泣くよ
守りっ子は楽なよで つらいもの
つらいはずだよ よそだもの
よそは他人の なかだもの
他人のめしには とげがある
ねんねんころりよ ねんころり
守りっ子は楽なよで つらいもの
雨風吹いても 宿はなし

人の軒場に 立ち寄れば
またうるさいと 追い出され
親が貧乏だから 子守りに出され
ほんに守りっ子は つらいもの
ねんねんしなされ  起きなされ
起きた目ざまし 何あげよ
お菓子かせんべか らくがんか
ねんねんよォ ねんねんよ
ねんねんころりよ ねんねんよ
ねんねんころりよ ねんねんよ

楽譜と合わせるために、最後の「ねんねんころりよ ねんねんよ」を一つ追加しました。

テンポについては、四分の二拍子で = 約80 とあるのですが、子守唄としては、あまりに速すぎるように感じます。八分音符で80かと考えて半分にし、 = 40 に設定しました。少し遅すぎるかな?

しみじみと聞かせる子守唄ですね。

かいこうまんま

かいこうまんま <遊ばせ歌〉 (野田市)

かいこう まんま お舟が通る
何積んで通る 米積んで通る
通らば呼ばれ こちゃ福の神

赤ちゃんをひざに抱き、前後に揺らしながら歌うそうです。「かいこう まんま」とは、もういわれのはっきりしなくなった、かけ声のようです。銚子と江戸をつなぐ水運の、昔をしのばせる歌ですね。

あんぶくたった

あんぶくたった 〈人寄せ歌〉 (東葛飾郡沼南町)

あんぶくたった にたった
おろしごろだ 食いごろだ
みなさんみなさん 寄ってきな

遊びの友達を呼び集める時の歌だそうです。「あんぶくたった」というのは「あぶくがたった」とのことです。

一つひよどり

一つひよどり <手まり歌> (香取郡山田町)

一つひよどり その日がたより
二つ福助 飴箱たより
三つ味噌豆 麹がたより
四つ嫁さま 婿さまたより
五つ医者殿 薬箱たより
六つ娘さん 針箱たより
七つ名主殿 帳面箱たより
八つ山伏 ほらの貝たより
九つ虚無僧 尺八たより
十で殿さま お百姓がたより

泣いてくれるな

泣いてくれるな <守り子歌> (銚子市)

泣いてくれるな出船の出先ヨ
泣くと出船が出そくなるヨ ヨイヨイ

お前泣くからこのわしまでがヨ
つらい涙が先に立つヨ ヨイヨイ

守りは楽なよでつらいものヨ
雨風吹ければ宿はなしヨ ヨイヨイ

ヨーイ四日市場よっかじばが暮れてヨ
芦崎あっさきたんぼで夜が明けたヨ ヨイヨイ

早く来い来い師走の二十日ヨ
いろいろお世話になりましたヨ ヨイヨイ

ヨーイ四日市場のよごれ道心棒ヨ
いくらよごれでも籠つくるヨ ヨイヨイ

「出そくなる」とは「出そびれる」の意味だそうです。
また、「四日市場よっかじば」は銚子市中心部から四キロほど 上流で、昔は川船の港があったところだそうです。

おら前の田ん中で

おら前の田ん中で <どじょうの歌> (東葛飾郡沼南町)

おらめえの田ん中で どじょうの祝言だ
ふなが提燈持ちゃ なまずが仲人で
えびの腰曲がりが はさん箱かづぎ
いもりのこのこ お供にはいだした

「はさん箱」とは、挟み箱で、昔、衣服などを入れ、従者がかついだ箱のことだそうです。
ラとソの音階だけで、歌いやすいです。

おらが隣の千松は

おらが隣の千松は <手まり歌> (銚子市)

おらが隣の千松は
近江の戦に頼まれて
一年たってもまだ来ない
二年たってもまだ来ない
三年たったら首が来た

「近江の戦」が出てくるところから、かなり古くからの歌らしいです。

孝行娘は

孝行娘は <縄とび> (銚子市)

孝行娘は中村の
中村名主の愛娘いとむすめ 年は十六名はお仙
お仙の友達四十九人
四十九人の友達よ
行かぬか友達花折りに
花は何花ぼたん花
一枝折っては手に持って
二枝折っては腰につけ
三枝折るときゃ日が暮れて
かかさん鎌倉見物に
ととさん東国神参り
帰りのみやげはいらないが
早く帰ってくだしゃんせ
父さんよからの鏡はいらないが
麦藁三本で殺された

今は「縄とび」というと、一人でするものがほとんどになっていますが、昔は、たいてい二人が縄を持って、他の一人、あるいは複数の人が中に入ってとんだ遊びでした。下の動画のように。

本によりますと、縄とびという遊びは、意外と新しく、明治になってから外国から入ってきたものだそうです。「孝行娘は」の歌は、内容が古いですが、元は手まり歌で、それが縄とびに転用されたものらしいです。

一かけ二かけて

一かけ二かけて <手合わせ> (東葛飾郡沼南町)

いっかけ 二かけて 三かけて
四かけて 五かけて 橋をかけ
橋のらんかん 腰をかけ
はるか向こうを ながむれば
十七八の ねえさんが
花と線香を 手に持って
ねえさんねえさん どこいくの
わたしは九州鹿児島の 西郷隆盛娘です
明治十年十月に 切腹なされた父親の
お墓参りに まいります
お墓の前では 手を合わせ
なむあみだぶつで ジャンケン ポン

「手合わせ」というのは、勝負のことではなくて、二人が向かい合って(座り)、歌に合わせて、互いの両手を打ったり、自分の手同士を打ったりする遊びです。

一番始めは

一番始めは <手まり歌> (東金市)

一番始めは一の宮 二は日光の東照宮
三は佐倉の宗吾さま はまた信濃の善光寺
五つは出雲の大社おおやしろ 六つは村々鎮守さま
七つは成田の不動さま 八つは八幡やわたの八幡宮
九つ高野の弘法こうぼさま 十は東京二重橋

千葉県に限らず、同じような歌が広く歌われているようですが、千葉県から佐倉宗吾と成田不動の2つが出ています。

さて、この上2つ(「一かけ二かけて」と「一番始めは」は、メロディーが似ています。これはもともと、「抜刀隊」という軍歌から派生したものだそうです。「抜刀隊」は、外山正一の歌詞に、フランス人のお雇い外国人シャルル・ルルーが曲をつけたもので、田原坂の戦いで有名な西南戦争を題材にしたものです。西洋音楽が物珍しかった当時、大変な人気だったみたいです。抜刀隊の歌詞に出てくる「敵の大将たる者󠄁は 古今無雙󠄁の英雄で」とは、西郷隆盛のことだそうです。「一かけ二かけて」には西郷隆盛が出てきますね。
実は、シャルル・ルルーは、この曲想をビゼーの歌劇「カルメン」の「アルカラの竜騎兵」から得たのではないか、と言われています。そうすると、この2つのわらべうたは、フランス人作曲家ビゼーにつながりがある、ということになります。面白い話ですね。参考までに。

おばばよく来た

おばばよく来た <お手玉>  (銚子市)

おばばよく来た 上がれよ茶上がれ
お茶がいやなら 庭へ行ってござれ
菊や牡丹や おもとの花や
おもとなぜ泣く おなかが痛い
おなか痛けりゃ むひずがはしる
それでその子が どうにもなれば
寺の小姓は 道楽小姓
高い縁から 突き落とされて
どこをぶちゃした 額をぶちゃした
額一番 だいじなところ
医者を呼ぼうか 鍼医者を呼ぼうか
医者も鍼医者も 皆いらぬ 皆いらぬ

同じ「おもと」で、始めは「万年青」を言い、次は「御許(=あなた)」を言っています。

おことわり

本の楽譜を歌声ソフトに移す時、うまく乗らない時には自分なりの変更を加えました。例えば
スラーやスタッカートを加えたりしました。楽譜に歌詞が省略されている場合は、歌詞を適当に割り振ったりしました。
また、同一の曲の中で、4/4拍子の中に部分的に3/4拍子が来る時は、適当なところで休符を入れて4/4拍子にしたところもあります。4/4拍子の中に部分的に1/4拍子が来た時は、隣の4拍を3拍に縮めて合計4拍でまとめたところもあります。
不審に思われた場合は、直接本に当たってください。

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